101系が中央本線等の駅間距離が長い路線でしか使えないのは全電動車として設計されていたものを最終的に6M4Tと付随車を編成中に増やしたことによるモーターの過負荷が原因である。特に通勤路線は駅間が短い区間が多いため、101系で運転すると電動車の比率を高めるか限流値を下げて速度を落とすしかなかった。これは101系に用いられているMT46Aという主電動機の熱容量が小さかったためである。熱容量にはモーターの絶縁材が大きく関わっており、MT46Aの温度上昇限度は電機子が特別B種の120度まで、界磁がH種で150度までの制約があり、電気を流した時に発生する熱は電流の二乗に比例するので大きい電流を流して加速度を高めると電動機が加熱しすぎて絶縁材の寿命が短くなる。温度が8度上がるだけで寿命が半減する「8度半原則」という法則もあり、保守を考えると許容温度以上の負荷使用は特別な場合を除いて避けなければならなかった。

RMS電流は求める線区の運転曲線から列車の電流量を計算で求める手法である。その列車が実際に運転した後は当然主電動機の温度が上がるがこれを最初から一定の電流を流して同様の温度上昇になる数値を計算で求めることとも言える。よってその列車が計算上与えた運転曲線通りに運転できるかはRMS電流を計算して主電動機の連続定格電流以下か一時間定格電流の80%以下の電流値であることが求められる。ちなみに運転時分作成のための速度定数義務では速度定数査定基準規程1964年12月10日によって様々な条件が課せられるが、主電動機の温度制限に関する第33条の内容は以下の通り。

運転線図における加速区間の平均加速電流及びその他区間の電流が1時間定格以内の場合

運転全区間のR.M.S電流(平均自乗平方根電流)が1時間定格の80%以内の場合

運転線図に基づいて温度上昇を計算した結果が許容限度内にある場合

源流地を一時間定格電流以下に設定して運転した旧型国電と違いMT46以降の電車用主電動機は電流の過負荷に対する耐性が時間定格電流の160%までに設計されており、起動電流を大きくとって加速度を高めるとモーターが過負荷運転になることもあった。そこで1959年秋頃から主電動機の温度上昇限度をオーバーすることなく運転線図を制作して運転計画を立てることが当然となり、そのためにはRMS電流計算により推定するのが基本となった。

前述したように101系をモデルチェンジした回生ブレーキの採用や出力の増強が見送られて運転間隔や架線への影響、消費電力量等の経済性等も含めて通勤電車向けの主電動機を新たに開発することとなった。消費電力量や起動電流の面からは定格速度を低く取るのが良いが、逆に低すぎると力行率が増して回復運転に向かなくなるか高速運転のために界磁を極端に弱めなければならなかったり電気ブレーキ使用時に過電圧になる可能性もあった。これらを勘案し、標準型通勤電車用としてMT55形主電動機を開発した。一方回生ブレーキの採用は製造時のコストが後のランニングコストの低減をはるかに上回ることから見送られた。

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